ザ・サーペントの感想 興味深い犯罪者 シャルル・ソプラジ

ザ・サーペントザ・サーペント
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今回は、Netflixで配信中のサスペンスドラマ「ザ・サーペント」について。

いや、このドラマにはとにかく驚かされた。 というより、主人公のシャルル・ソブラジという男には本当に驚かされた。

自分は今まで数え切れないほどの海外ドラマを見てきて多くのシリアルキラーを知ったが、このザ・サーペント(毒蛇)こと「シャルル・ソブラジ」のことは、このドラマを見るまでまったく知らなかった。

この男はいわゆるシリアルキラーと呼ばれる殺人者で、一見シリアルキラーの典型的なパターンに嵌っているタイプに見える。 だがしばらく見ていると、同じシリアルキラーでも実はかなり特異な存在であることに気づく。そう、いろいろなところで過去の有名シリアルキラーとは違う一面を見せるのだ。 中でも特にソブラジが異質なのは、アジア系のソブラジが欧米系(しかも男女を)をターゲットに犯行を重ねたこと。この事例は非常に稀だと思う。

今回はザ・サーペントの感想だけど、このソブラジにあまりに驚かされてしまったので、ソブラジについての感想になってしまうかもしれませんw

ザ・サーペントについて

まずは少しこのドラマの背景について解説。ザ・サーペントはNetflixとBBCが共同制作したドラマ。

シャルル・ソブラジは国籍的にはフランス人、人種的にはインドとベトナムのハーフだそうだ。そしてドラマの舞台は、序盤から中盤まではタイ、その後は主にフランスという感じ。なので英BBCが制作?と一瞬不思議に思ったが、たぶん欧州ではかなり知られた事件なのだと思う。

ドラマの言語は、基本英語でところどころにフランス語が入るという感じ。✱日本語吹き替えはある

このシャルル・ソブラジは実在の人物で、ザ・サーペントで描かれているストーリーは実話に基づいているとのこと。フィクション部分等は遺族の方々に配慮したという理由だそうだ。ドラマを見終わって、この事件について自分でもいろいろ調べてみたが、ザ・サーペントの脚本は事実からそう外れていない。

ストーリー

この物語は、タイのオランダ大使館職員である「クニッペンバーグ」という男が、タイ国内で行方不明になった自国(オランダ)の旅行者を探す事から始まる。 調査をはじめてほどなくクニッペンバーグは、アラン・ゴーティエというフランス人宝石商の存在に突き当たる。

アラン・ゴーティエは裕福な宝石商でアジア系フランス人。カナダ人女性のマリー・アンドレ・ルクレールとペアで行動し、多くの欧米旅行者を自宅に招くなど、リッチでオープンな人間として周囲に知られていた。この時代(1970年前後)は世界的にヒッピー文化が流行、タイ、インド、ネパールなどへ多くの欧米系ヒッピー旅行者が訪れていた。

このアラン・ゴーティエの正体は本名シャルル・ソブラジ。ソブラジはフランス人のゴーティエに薬を盛り昏睡させ、パスポートなどを奪い偽造し、本人になりすましていた。タイでのソブラジは、ヒッピー旅行者を家に招き、金のありそうなカモをみつけ、薬を盛り衰弱させ(ときには殺し)現金や宝石、パスポートなどを奪っていた。

当時は現地の情報も少なく、心細く思っている旅行者は多かった。今のようにかんたんに解決できない問題も多く、現地に住み、豪華な暮らしをしているソプラジは欧米系旅行者からすると、かなり魅力的な存在に映ったはず。なにしろリッチ、プール付きの豪邸(コンドミニアム)で毎夜パーティー、裏でドラッグのディラーもやっているのでドラッグも豊富に持っている。まさに欧米系旅行者からすれば、理想の現地人だろう。

ソプラジは表向き宝石商を名乗っていたが、この時の彼の稼ぎの殆どは昏睡強盗(または強盗殺人)とドラッグの売買によるものだ。クニッペンバーグが調べる行方不明者の件では、ゴーティエ(ソブラジ)の隠蔽工作が完璧で逮捕はできなかった。ただドラッグの売買でしっぽを掴んだクニッペンバーグは、タイ警察を動かしなんとかソブラジを拘束する事に成功する。

だがソブラジはタイでの逮捕を予測し、すでに手を打っていた。タイ人協力者の力を借り脱獄に成功、さらにタイからの脱出も成功させる。

その後のソブラジは、ネパール、インドで宝石を手に入れフランスに持ち込み本当の宝石商として成功する。ところが、タイ・バンコクでの報道でシャルル・ソブラジとマリー・アンドレ・ルクレールの指名手配写真(強盗殺人容疑)が出廻りだしていた。

この件がフランスを始めヨーロッパ全土で報道されるようになり、ソブラジとマリーはフランスから逃亡、インドを目指す。 その後インドでもソブラジは薬物を使った強盗を計画するが失敗。ソブラジとマリーはインドで逮捕され服役することになる。

刑期を終えたソブラジはフランスに帰国、フランスで自伝・映画化権などを莫大な金額で売り、再びリッチになる。だが何を思ったか、ソブラジは突然ネパールに入国する。ネパールでは現在もソブラジに対する逮捕状が有効で、その事実をソブラジも知っていたはず。自身の予測通り、ネパール警察はソブラジを逮捕。ソブラジは裁判で無期懲役を言い渡され2021年現在もネパールの刑務所に服役中・・・

【注意】最初に知っておけばもっと楽しめたのに!と思ったこと

いきなりだが、このドラマについて最初に書いておきたいことがある。

それは、このドラマを見ていて個人的にすごく謎な部分があり、何度も「なんで?」と感じ、意味不明、整合性ないし面白くない!とも感じていた事があった。

それはクニッペンバーグが捜査を開始すると、彼の上司(オランダ大使)や、彼の周辺の協力者(大使館職員関系)が、捜査を行う事に強硬に反対したことだ。例えば、彼がソブラジ(当時はゴーティエ)を逮捕するために、違法薬物での家宅捜索をタイ警察にしてもらおうとすると、大使館関係者は口を揃えて「そんなことやったら、どうなるのかわかっているのか!!」とか激怒する。

自分は「??」・・ なんで自国民が、自分が外交官として勤務する赴任地で行方不明になったのを調べて怒られるんだ? どうなるかって、どうなるんだ??とマジで謎。

クニッペンバーグの仕事は捜査ではないというのはわかるが、同国人が赴任地で殺されているなら、外交官が関与するのは当然。ドラマではこの反対するものが多かった理由をボカしていたが、一体何なのだろう?人種差別とかが関係しているのか? それとも当時のタイの国益(外国企業誘致とか)に反するとか? でもしっかり捜査して捕まえれば現地の警察・政府にとっても悪い話ではないはず。一体何が隠れているのだろう?これだけは大いに不満・・ 途中まではこんなふうに思っていた。

だが終盤、ソブラジがインドの刑務所に服役中、マリーと面会したシーンの一言ですべての謎が解けた。ソブラジはマリーに対し、「インドの刑務所でオレはヒーロー、別に苦痛でもなんでも無い」と言った。最初は「なんで?なんでソブラジがヒーローなの?しかもインドで?刑務所で??」とか思っていたが、これはやはり人種差別的な問題と関係があった。

欧米系を襲い奪うソブラジを刑務所内のインド人は英雄視した、そんな彼を欧米系のクニッペンバーグ等が追うことは大問題につながりかねない、それが反対される原因だったと。✱たぶん

歴史的にネパールもそうだろうがインドが欧米人(特に英国人)に対し不満を持つのは当然だろう。これらの地域を過去に欧米(主にイギリス)が侵略、攻撃した事から、欧米の大使館員などは地元民の暴動などに神経質になっていたと。そういえばソブラジの逮捕歴にはイランやアフガニスタンも含まれている。どこも欧米系に一定の不満を持つ地域だ。仮に逮捕されても英雄視され、一定の共感を得られる地域を彼は行動エリアとして選んでいたのかも知れない。

そうなると、欧米への反感を特別持っていないタイは?となるが、タイでのソブラジは稼ぐために滞在していた事、そして例の女性の件で逮捕されても脱獄策があったこと、そしてどの国よりもバックパッカーが多いことから選んだような気がする。事実ソブラジはインドとネパールでの服役はOKだが、タイでの服役は徹底して拒絶した。まあタイは死刑制度があるという大きな要因があるが、年をとった現在にネパールでの無期懲役を受け入れるソブラジが、今でも死刑を恐れるとはあまり思えない。もしかしたら死刑だけは勘弁・・と思っているのかも知れないが。普通は無期懲役も同じくらいイヤだよねw

ま、なんにしても、このクニッペンバーグへの周囲の反対の理由は「人種差別・歴史的要因」だった。 ソブラジにとって幼い頃のフランス時代に受けていた人種差別や、青年になった後のフランスで警官から様々な嫌がらせを受けていたことなどが、彼の人格形成の大きな部分に影響している(と、ドラマでは描かれている)。 このストーリーの大きな柱の一つに、一定のアジア系にとって白人は敵視すべき存在というのがあった。 結局ザ・サーペントではその部分をボカし、まともに描かなかったが、ソブラジの行動原理の根底には人種差別への抵抗があるのだけは伝わってきた。これを最初に知っていれば・・というか気づけていれば、もっと楽しめたのなぁ。 まぁ、そんな事に気が付かないのはアンタだけだよ、と言われればそれまでだけどw

シャルル・ソブラジという特異な犯罪者

まずソブラジは典型的なサイコパス・シリアルキラーといえる。 クリミナルマインド的な分析をすると、ソブラジは計画的に犯罪を行うボス猿タイプ。

彼にとって犯罪のパートナーは道具に過ぎず、いつでも切り捨てる。基本サイコパスは他人に対し愛情を持たないので、これはある意味当然でもあるが、サイコパスも人間に強い思い入れを持つことは普通にある。だがソプラジは親しかったマリーやエージェイに対しても、愛情的なものは一切持っていない。ただし唯一、母親に対する愛情はあった。というより、愛されたかった。これもまたサイコパスの特徴だ。

また必ず逃亡手段を用意していることから、かなり計画的なタイプだと分かる。彼は感情のコントロールが出来ず、暴発するタイプとは程遠い存在。 仮にシリアルキラーとして軽く分析しても、ソブラジは捜査当局にとって非常に手強い相手だとわかる。

またソブラジのセリフの中には、快楽的な殺人への欲求を感じさせるものがあった。だが彼が実際に犯した殺人はすべて金銭目的(またはその後始末)。なので彼の殺人は、殺人以外の目的があり、なおかつ計画的に行っている。有名なシリアルキラーの多くは、計画的ではあるが殺人自体を目的としているタイプが多い。そして殺人の方法や殺害場所、遺棄場所などにこだわりを持つ者が多いが、ソブラジにそういう特徴は一切ない。という具合に、一貫して金銭目的のソブラジはかなり珍しいシリアルキラーと言える。

また若い頃から、フランス、ギリシャ、イラン、インド、アフガニスタンなどで凶悪犯罪を行い、脱獄を繰り返していることから、彼には恐怖心が無いのだと推測できる。これもサイコパスの特徴だ。そしてその延長線上に、次から次へと偽造パスポートを造り、平然と入管を通り抜けるふてぶてしさがあるのだろう。だが、ここまで大胆に犯行を行うタイプもかなり稀だ。ソブラジ達が実際に使用した偽造パスポートの持ち主の多くを彼は殺している。入管でパスポートが偽造だと判明すれば、持ち主の行方不明も発覚する。3人で移動していれば、その3つの偽造パスポートの持ち主が全員行方不明ということ。バレればイチコロだ。

そしてソブラジで最も驚くのは、その行動範囲の広さだ。欧州から中東、アジアまで自分の庭を歩くように余裕で移動している。ハイウェイキラーのように全米を移動して殺人を繰り返したシリアルキラーもいるが、ここまで広範囲で行動する犯罪者はあまり聞いたことがない。しかも1960、70年代って・・ 混血に生まれれ、幼い頃から長距離移動を経験したとはいえ、この行動力は尋常じゃない。

また、この時代に各国の偽造パスポートを作る、それを使い堂々と世界を飛びまわる、脱獄を計画し何度もそれを実行→成功させるなど、難関犯罪を次から次へと実行する力も並外れている。話だけ聞いていると、まるでイーサン・ハントだ。こういうところも、他のシリアルキラーでは聞いたことがない。

そして最初にも書いたが、彼がアジア系で、殺人のターゲットを白人の男女としていたこと、これもかなり驚くべきことだ。アジア系で白人女性を狙うシリアルキラーというのは、数は多くないが存在した。これは性犯罪者、もしくは殺人で性的快感を得るタイプだが、ここでもソブラジは微妙に型に当てはまらない。

真実はわからないが、判明している限りソブラジの殺人は性的快感とは無関係だ。快楽殺人も性犯罪も関係なく、必要のない殺人はしない。やはりこの男の根底には、強烈な人種差別への抵抗感があるようだ。だが、例えばアルカイダのようにアメリカ・欧州に対し敵対するような意識はあまり感じない。 どちらかと言うと、本当に個人的な抵抗感。ソブラジは国や社会を変えたいのではなく、すべて自分の為、個人の戦いだったように思う。殺人と性的快感を結び付けない点は多くのサイコパスと違う部分だが、自分の事しか興味がないという意味なら、これまた典型的なサイコパスといえる。

ちなみに、こういうズバ抜けた能力を持つソブラジなら、普通に生きても成功者になったかも~とかいう意見は間違っていると思う。まず彼を突き動かした強烈な欲求は、ビジネス的な成功とは無関係。そもそも努力とか忍耐なんてソブラジは0.1gも持ちあわせていない。超一級の犯罪者が一流の経営者になれるか?というのは全然別の問題、要求される適性がまったく違う。

なぜネパールに入国?

そしてソブラジの行動で最大の謎とされた、最後のネパール入国と無期懲役について。

老いたクニッペンバーグはこの理由を、自分は捕まらないという自信が~のようなコメントをしていたが、もちろんそんなことではないだろう。では、なぜ?

少し整理すると、ネパール入国は2003年。当時のソブラジはインドでの刑期を終え、フランスに住み、自伝等で大金を稼ぎ、家族を持っていたとのこと。ソブラジ自身は、もしネパールに入国すれば逮捕・投獄される可能性があることは理解していた。そして病気を患っているという話もある。 また、おそらく金に困ってはいなかったはずだが、ソブラジのようなタイプはかんたんに判断出来ない。もしかしたら金銭的に困窮していた可能性は多少ある。そして、無期懲役とされているが一応2023年に仮釈放の可能性がある。

またドラマではソブラジが自分から警察?にネパール訪問を伝えたとの事だったが、これは情報が正確でない可能性がある。というのも、最近ネパール当局がこの件を否定しているからだ。ネパール当局の話では、ネパール警察がソブラジを発見し逮捕したとのこと。真実は不明。

だがこれだけ情報があれば、ソブラジがなぜネパールを訪れたのか?はだいたい推測はできる。いくつかのパーターンが思い浮かぶが、まず前提として、ソブラジが大金を今も持っていて、わりと大きな持病を持っている場合。 これはネパールで逮捕され懲役刑になって人生を終えても構わない、またはそれを望んでいた可能性が考えられる。

人生で何度も経済的に成功しているソブラジ。現状金に困っていないなら犯罪を犯す動機も無いと言える。年老いて自慢の行動力も落ちているはず。ネパール入国の理由はもちろん犯罪ではない。となれば、やはり彼の好きなアジア地域(パリを含めヨーロッパは大嫌い)で暮らしたいと望んだ可能性がある。そして長期服役したインドの刑務所は快適だったという話なので、じゃあネパールと。ネパールの刑務所なら昔のツレが多くいそうだしw 金もあるならそれなりの余生を送れるだろう。

反対に逮捕は想定外だった可能性ももちろんある。ネパールで普通に暮らせると思ったが認識が甘く逮捕されてしまったという説だ。まあ、ナメていたということ。抜け目ないザ・サーペントも老いて判断能力が落ちたということ・・・かな?

もう1つ考えられるのは、なにか危険を冒す理由がネパールにあった場合だ。いまさら過去の犯罪の隠蔽工作とかは無いと思うので、隠していた何かを取りに来たとか。そうすると金か?宝石か?まあ宝石だろうね。 もちろんこのケースは自伝の権利で得た金を使い果たしていた場合、まだまだカネに対する欲求があり、彼の気力が衰えていない場合だ。個人的にはこの説が最有力だと思う。

あとはどうしても会いたい人物がいるとか、なにか特別な思いがある場所があるとか・・・

マリー・アンドレ・ルクレール

このドラマでのマリーは、一応善人だし、家族を愛する普通の女性。だが少し寂しく、なにか物足りない人生を送っているという感じで描かれていた。

そして匿名でソブラジの犯罪を警察に訴えたりしたこともあり、本来彼女は無実なのでは?という描かれ方にも見えた。 だが、ザ・サーペントではマリーは有罪と断定しているように自分には感じた。これはクニッペンバーグのコメントとは無関係、彼女はソブラジが指摘したように、確実に殺人に気づいていたし、自分が薬を盛った後に旅人がどうなるか?を知っていた。まあそれを楽しんではいなかったかも知れないが、それによって金が入ることの喜びは間違いなく感じていたはずだ。

マリーは自分が善人と信じたい悪人、そしてもちろん殺人者。いやシリアルキラーだ。一人も殺していないとしても、殺しに加担し、時には率先してカモを連れてきて薬を盛った。偽造パスポートや偽名を使いあちこちを移動していたことから、自分がとんでもない犯罪を犯している実感はあったはず。 自分が流されたとしても、やるべきことはあっただろ? このドラマはマリーに対しそう言っていたと思う。

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コメント

  1. Marie-Andre より:

    ドラマ見て他の人はどんな感想なのかと見にやってきました。

    そうなんですね。あのベルギー人の「ピストルで撃ちゃええ」の謎はそこだったんですね。ありがとうございました。すっきりしました。。